Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

   “冬の陽だまり”
 

特に手入れもしちゃいない、
雑草ばかりが我が物顔で生い茂る庭先にも。
だからこそ自然で生え抜きの、
その時期折々の草花がお顔を見せてくれ。
今時分の主役といえば、南天や千両の赤い実に、
厚くてつややかな葉も青々とした、
山茶花の生け垣に開いた鮮緋色の花々。

「椿の佗助も咲く頃合いじゃあなかったか。」
「ウチのってそんなお名前の椿なんですか?」

昨日までの雨続きの日々は、
底冷えに追い立てられるようにして、
広間の奥まったところで炭櫃にあたってた主従だったが。
今日は久々、風も吹かない良いお日和になったので。
濡れ縁にまで まかり出て、
伸び伸びと陽なたぼっこを堪能しておいで。
真冬の寒さに比べれば、
こんな冷え込みなぞまだまだ序の口と判っちゃいるが。
その前の秋の間、例年にないほど暖かな日が多かったので。
ついつい体の方の覚悟が追いついていなかったものと思われて。

 「名前までは知らねぇがの。」

自分から話を振っておいての、このお言いよう。
そんな無責任ぶりも相変わらずの、
金髪痩躯のお館様のお膝には、
こちらさんも寒かった数日を
“ちゃむちゃむちゃむ…”と身を縮めて過ごしてた、
小さな小さな仔ギツネさんが、
ふにゃいと眠たそうに丸まっておいでで。
甘茶色の髪の間から覗いている可愛いの、
金の毛並みに覆われた、柔らかいお耳を時折ひくひく震わせるのは、
よほどのこと眠ってしまいたいらしい欲求の現れだろに。

 「くうちゃん、くうちゃん、ネンネするならお布団敷こうか?」

今日のこのお日和だったなら、
広間の端っこ手前という位置でも
燦々と暖かな陽が降りそそぐから。
そこへと綿入れの敷物を置いたげようかとセナが訊いてやるのだが、

 「うにゃ…や〜の。」

今はおやかま様のお膝がいいと、
うにうにとかぶりを振っての、
やわやわな頬を蛭魔の懐ろに擦りつける様がまた、

 「うあ、かわいいですよねぇvv」

そのふかふかな弾力を、
惜しげもなく押し潰す傍若無人ささえ。
幼子の非力によることという範囲内だからだろか、
逆に押し戻されてるところなぞ、
何とも愛らしくって仕方がない。
脇息ほどもないほどに、小さな軽い身だからこそ、
抱えてやっての甘やかしてる蛭魔にしても、

 「う〜ん、いつの間にか冬毛に入れかわっとるな、これは。」

見た目はすべすべお肌の幼子なれど、
実は柔らかい毛並みの仔ギツネ様なので。
直接触れてるところは何とも気持ちのいい感触がし。

 「あ、ずんと温かいのですか?」
 「おうよ。新毛なのか、柔らかいぞ。」

新毛って…。
(笑)
ぷにぷにな見栄えのままな坊やだったとしても、
軽い御身は十分に暖かそうだってのに。
そんなふわふわの毛並みをぎゅうと出来るとあって。
この時期から春までは、
時に主従で坊やの取り合いまで起きるほど。
今日は特に、前日までの底冷えが堪えたこともあり、

 「んん〜〜〜〜、かわいいの、くうはvv」

懐ろの中に抱えたおチビさんを、尚のこと掻い込むと、
いい子いい子と頬擦りまでして見せる蛭魔だとあって、

 「明日は嵐になっちまうから やめとけ。」

そんな的確な、もとえ…恐ろしいツッコミを、
ついつい入れたお人がいたようで。
おやや、葉柱さんかしらと、声のした方をセナが見上げれば。
庭に接した道なりに生えている、大きなのっぽの楢の木の樹上、
葉が落ちてのあらわになってる太い目の大枝に腰掛けて、
こちらを見下ろす不遜な誰かがおいで。

 「あ…。」
 「あぎょん♪」

雄々しき肢体を余裕で幹に凭れさせ、
長い御々脚は座っている枝に添わせてという寛ぎようを、
透明度の高い青空を背景にして見せておいでの彼こそは、
このお屋敷のすぐ裏手、小高いお山の森の中に住まう、
阿含という名の蛇神様で。
単なる土地神の級じゃあない、
畿内担当というから途轍もない権勢誇る身でもあるらしいその上、
時折ご披露くださる咒の力も半端なそれじゃあないくらいだから、
文句なしの“大妖”にあたろう存在なれど。
だとすりゃあ陰陽師の蛭魔とは、相容れない間柄であるはずが。
何が面白いのか、初見の一件のその後もずっと、
わざわざこちらの付近へまでまかりこしちゃあ、
話相手になったり、遊び相手になったり、
よそ者からのちょっかいを防いでくれたりと、
結構、お世話をしてくれてもおり。
特に、

 「あぎょん、あしょぼvv」

おやかま様のお膝から よいちょと這い降り、
おーいおーいと紅葉のような小さなお手々を延ばす和子。
仔ギツネくうちゃんとの仲良しっぷりは、
もはや賄いのおばさままでが御存知なほどの公認であり。
こちらさんとて、将来は天の神々のお使いになる身の、
いわば“聖なる存在”だってのに。
そもそも最初に縁を結んだのが、
蛭魔の式神、蜥蜴の大妖だったせいもあってのことか、
どんなに強大な妖力咒力の持ち主へも、
臆さず構えずの、むしろ懐く懐く。

 “最初に目ぇかけた誰かさんが、
  それだと危険だという教育をせんかったからな。”

武神の係累らしき、セナの守護たる進さえも、
怖がるどころか亜空にいたらしいものを引きずり出した剛の者。
そんな坊やだから…とのことか、
神様は神様でも祟る神かもしれない阿含にまで、
なかなか愛らしい呼び方で、
すっかりと懐いてしまって幾久しくて。
そして、

 「…しゃあねぇな。」

そんな坊やからの“ねえねえvv”という懸命なお誘いに、
無視も仕切れず、結構な高さのあった宙をふわりと降りてくるほど、
阿含さんの側からも、
しっかり絆
(ほだ)されておいでなあたり。
何かわざわざ言い足すこともなかろう、
結びつきようじゃあありませぬかvv
(苦笑)

 「一応は結界が張ってあるんだがな。」
 「地に触れてる範囲限定だろ?」
 「うんにゃ、
  地下と地上空間とにも立方空間指定ってのを施してんだよ。」

一応はお屋敷の敷地のお外にあった木の上、
そんな位置からやすやすと侵入出来てるなんて、
理屈がおかしいんですけれど。
早速の意見を寄せた蛭魔だったが、

 「そっか。きっと俺には効かない咒なんだろう。」
 「そりゃあ残念なお知らせだ。」

あっさり躱されることまでが織り込み済みか、
憎まれこそ言いはしても、
それ以上の…例えば突き飛ばすほどの拒絶もしないし、
庭先に立つ来訪者へ、和子が駆け寄るのを止めもしない。
別段、脅威に思っちゃいないという、それが答えということならしく。
濃色の作務衣に鹿革だろうか、足元をすっぽりと覆う靴という、
修行中の僧侶か検非違使の手下のようなほど簡易な格好の彼が、
きゃ〜いvvと飛びついて来た和子を抱きとめ、
そぉれと目線の高さへまで抱え上げるの、
ほのぼのと見守っているばかりだったりし。

 “何だかんだ言って、
  阿含さんて葉柱さんが居ない時を選んで来るんだよね。”

こんな風に、
お師匠様と対等な物言いをしたり、くうちゃんが懐いたりするの、
傍らで見聞きをすることが全く無いではなかったが。
そういう折に居合わせるといつも、
あんまりいいお顔をしない総帥様だったから、かしらねと。
野放図に見せて、案外と気配りもお上手な精霊さんなんだなぁと

  ………あ、はい。
  セナくんはそうと刷り込まれておりますので、
  阿含さんへ祈祷を仕掛けての
  “退散”と構えないのもそのためです。

そうまでお馴染みの蛇神様だが、
蛇の眷属なので、冬になればしばしのお別れ。
春までの長い眠りに入ってしまわれる。
ああもしかして、今日はそのご挨拶に来やったのかしら。
房に分けての縄のように綯った変わった髪、
肩車したくうちゃんに むぎゅと掴まれても機嫌を損ねぬ、
なかなかに気のいい精霊様は、だが、

 「あのさ、今年は俺、冬眠しねぇから。」

  …………………はい?

つか、俺って別に眠らなくても保つ存在なわけ。
たださ、眷属の一族郎党すべてが、どうあっても寝ちまうもんで。
情報集めも出来なきゃ寄り合いも無いって状態になんのが退屈だから、
しゃあねぇかって寝こけてただけで、

 「ここ最近は特に、真冬でも叩き起こされとるからな。」

あははは、そうでしたねぇ。
(苦笑)
葉柱さんから くうちゃんまでと、
お休み中なの揺り起こしちゃあ、
相談に乗ってとか遊ぼとか、言ってくること多かりしな ここ数年。
これって、全然退屈してねぇ状態じゃんと、
そうと気づいたもんだから、

 「あぎょん、ネンネないない?」
 「おお。この冬は遊べんぞ? ただし、」

雪の多い日はダメだし、
寒い中を分け行ってくんな。
うっ、あむないこと、ないないね?

 「…指切りしてますね。」
 「子煩悩な親父に見せてやりてぇ。」

こらこら、蛭魔さん。
(笑)
そっか、だから、
やっぱり葉柱さんの居ない間に来た阿含さんだったかと。
うんうんと納得していたセナくんも、
今日のこのご訪問に関するお話、
誰かさんへは内緒にしておく所存です。

  “…だって、あっさり話しちゃったら、
   お師匠様に叱られるでしょうし。”

それだけじゃないだろ、このお茶目さんvv
とりあえず、今年の冬が暖冬だったらいいですねと、
仔ギツネ坊やの無邪気な笑い声を見下ろして、
有明の白いお月様、宙に浮かんでござったそうですvv




  〜Fine〜  09.11.20.


  *じゃ、しょゆことでvv
   ………じゃあなくてだな。(失礼しました)
   くうちゃんから、あぎょんとあんまり遊べてないという、
   ぷんぷくぷーなご指摘がありましたので、
   今年の冬はこういう方向で。

   さて、ここで問題です。
   葉柱さんがこの流れへ気づくのは、一体いつになるでしょか。

   @ 来年の啓蟄を過ぎたころ
(おいおいおい)

めーるふぉーむvv op.jpg

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